イクメン・イクボス応援リレーメッセージ

イクメン・イクボス応援リレーメッセージ

イクメン・イクボス応援リレーメッセージ > 名古屋大学 田村哲樹
平成27年5月
名古屋大学 田村哲樹

名古屋大学 田村哲樹

イクメン応援リレーメッセージの第2回は、初回の大村秀章知事からバトンを引き継ぎ、あいちイクメン応援会議の座長を務めております、私が担当します。

「イクメン」という言葉そのものは、子育てに積極的に参加する男性を称する言葉として広く浸透しているように思われます。しかし、残念ながら、言葉の普及に実態はまだ追いついていない、というのが現状でしょう。

たとえば、育児休業の取得状況を見てみましょう。私は、かつて、2002年9月に育児休業を取得しました。その私自身が「モデル」となって2003年に作成された、あるシンポジウム用のポスターには、「育児休業を取得したい男性、10人に7人。実際に取得した男性、1,000人に3人。なるほど、彼が注目されるわけだ」と書かれています。「彼」というのは私のことです。実際に当時私がどれくらい「注目」されたかはさておき、この頃の男性の育休取得率は0.3%程度だったのです。現在では、この数値は、2%程度まで増加しています。しかし、依然として育休を取得する男性が圧倒的に少数派であることに変わりはありません。

しかしながら、男性が子育てを行うことは、それほど「変わった」ことなのでしょうか。確かに、「男性は仕事、女性は家庭」という考え方を当然と見なすならば、男性が子育てを行うことは「変わった」ことかもしれません。でも、男性も親であるならば、子育てをすることは、むしろ「普通」のことではないでしょうか(もちろん、親だけが子育てをするべきと言っているのではありません。念のため)。

そうは言っても、やはり女性の方が子育てに向いているのではないか、男性が子育てをしてもうまくいかないのではないか、と思う方もいるかもしれません。しかし、女性だからといって、最初から子育てが上手であるとは限りません。男性であっても仕事への興味関心も、仕事に関する能力も様々であるように、女性だからといって、子育てへの興味関心や能力が同じであるとは限りません。そのことは、多くの母親が育児に不安や悩みを持っていることからも明らかです。実際、ある発達心理学者は、母親が最初から育児上手というわけではない、と書いています。母親が「育児の第一責任者」、父親が「二番手で助っ人役」という立場の違いが、子どもへの気持ちや世話の違いを生んでいるのだというのです。母親は、「育児の第一責任者」の立場になることで、子どもと向い合い、悪戦苦闘・試行錯誤する中で経験を積み、「子育てのベテラン」として発達していきます(柏木惠子『おとなが育つ条件――発達心理学から考える』岩波新書、2013年)。同じことが、どうして父親には当てはまらないと言えるでしょうか。

もちろん、現状では、イクメンとして「育児の第一責任者」としての経験を積もうとする男性の前には、多くの難関が待ち構えています。職場では、家庭事情を理由とした休職や早退が評価に影響するのではないかという不安に囚われるかもしれません。「仕事ができない男」と見なされることは、多くの場合、とてもつらいことですし、実際に処遇にも影響してきますから、深刻な問題です。育休に関して言えば、休職中の所得保障が十分ではないことも、取得に二の足を踏ませる要因の一つでしょう。また、普通に仕事をこなしながら、家事や育児もこなすのは、仕事を二つかけ持ちしているようなものです。遅くまで働いた後に、子どもの世話をしつつ晩御飯を準備し、さらには後片付けや洗濯物畳み…といった生活はとてもできないと考えたとしても、無理もありません。何より、子どもというのは、自分の思い通りには動いてくれない存在です。そんな子どもと向き合っていると、単にかわいいとだけは思えないような感情にとらわれることもあるかもしれません。

要するに、現状では、イクメンであろうとすることは「大変なこと」なのです。「あいちイクメン応援会議」は、そんな大変なことに挑もうとするみなさんを応援するために設置されました。イクメンであることが「大変」であるのは、その男性の能力や資質の問題ではありません。働き方にせよ、「父親が育児なんて」という通念にせよ、「わたし」や「あなた」だけの問題ではなく、社会全体に関わる問題です。だからこそ、社会的にどんな応援ができるのか、考えていく必要があります。

もっとも、忘れてはならないのは、子育てをめぐる「大変さ」を多くの女性は既に経験してきた、ということです。そんな女性の中には、「男性を応援する前に、女性に対してまだまだ応援するべきことがあるのではないか」と疑問に思う方々もいらっしゃるかもしれません。このような疑問に対しては、イクメンを応援することは女性への応援にもなる、とお答えしたいと思います。子育てと(たとえば)仕事を両立することの大変さは、長らく「女性の問題」でした。イクメンを応援するとは、この問題が「男性の問題」でもあるとして、問題の定義を変更することを意味します。「女性の問題」であるうちは、女性は、変に「配慮」されても困るけれども、だからといって、ある種の「配慮」がなければとても両立はできない、という感覚を持ちやすいのではないかと推測します。イクメンを応援することは結果的に、男女を問わず活躍しやすい社会を創ることにつながります。

イクメンであることは「大変なこと」ですが、だからこそ、社会的に応援されるべきことでもあります。いつか、イクメンであることが「大変なこと」ではなく、「普通のこと」となる社会が実現するように、知恵を絞りたいと思っています。

次回のリレーメッセージは、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事 社会保険労務士の横井寿史さん、よろしくお願いします。

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