イクメン・イクボス応援リレーメッセージ

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イクメン・イクボス応援リレーメッセージ > 名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 准教授 佐々木成江
平成28年6月
名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 准教授 佐々木成江

名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 准教授 佐々木成江

イクメンという言葉が生まれて6年の月日が経ったそうだ。イクメンという言葉に、賛否両論があることは知っている。しかし、私は初めてその言葉を聞いたとき、すごいと感心した。冷静に考えれば、子供にとって、両親は父であり母であり、女性だけではなく男性も育児をすることは当たり前である。しかし、その当たり前が、当たり前と思えないほど、我々の脳には性別的役割分担が深く刷り込まれている。これは、深層心理下なため、意識していない分、変えようとする時、非常に厄介である。どう攻めればよいか?そこで、イクメンという言葉の登場である。イケメンと少し響きが似ているイクメンという言葉をつくることで、育児する男性に対してかっこいい印象をつくりだし、切り崩す。言葉が先に動き出し、何度も繰り返しその言葉にさらされると、脳は「育児する男性」という概念に対して次第に違和感を感じにくくなる。脳の性質を利用した素晴らしい戦略だ。

では、果たして社会は変わったのだろうか?イクメンという言葉が登場し、「育児する男性」という概念がフォーカスされ、議論が生まれていることは確かである。「あいちイクメン応援会議」が設立されたということも、とてもすばらしい成果であろう。しかし、イクメンと呼ばれる男性陣にその恩恵が還元されるほど、社会制度や風土はまだまだ変わっていないように感じられる。以前読んだイクメン本の中には、イクメンと仕事の両立の困難さが書かれていた。とても驚いた。その中に書かれていたイクメン達が抱えている問題は、キャリアを積んで活躍したい女性たちと全く同じ悩みだった。たとえば、育休を取ることに対する仕事(キャリア)の遅れ、周りの人に迷惑をかける不安、周囲の目。実際、私も出産したときに同じような不安を抱えた。私の上司は非常に理解があったため、周囲の目に関しては全く気にしなくて良かった。しかし、世界との競争の中での研究の遅れや学生の卒論発表指導時期との重なり、育休はとらなかったが、産休(8週間)は法的にとることが義務づけられているため、不安を抱えつつの休みだった。女性支援となると、とりわけ育休を取らせる方向の制度が進みがちだが、早期復帰しながら、仕事と育児を両立させる支援は非常に遅れている。両方の支援の充実が重要であり、たぶん、後者の支援は、イクメンの本格的支援と重なるところが大きいと思っている。

さて、イクメンや女性キャリア支援のように、社会においてその重要性が認識されつつも風土や社会制度が追い付かない事例はたくさんある。外国人登用拡大や男性の保育士・看護士問題などもそれらの事例の一つであろう。全く別問題のように思えるが、実は共通項がある。それは、問題を抱えている集団がマイノリティということである。問題を抱えている人が、あまりにも集団の中で少ない場合、その問題はその人だけの問題になり、解決策も個人にゆだねられることになる。経営学者のロザベス・モス・カンターは、マイノリティは3割を超えるとマイノリティではなくなり、組織が変わるという「黄金の3割」の法則を提唱している。つまり、3割を超えない限り、マイノリティに生じる問題は公に解決する方向になかなか進まないのである。

ここで、私が所属する名古屋大学生命理学専攻の事例を紹介しよう。我々の専攻では、優れた研究にこだわった上位職の女性限定人事を進めた結果、それが呼び水になりその後自然と女性研究者の採用が増えた。そして、現在では、「黄金の3割」に達している。これがいかに、日本の研究社会の中で画期的な数字であるかは、米国の有名科学誌「サイエンス」にもそのことが紹介されたことからも明らかである。最近の生命理学専攻の会議を見ていると、発言の50%は女性によるもので、自由に生き生きとしており、新しい発想も多く生まれている。また、長らくたった一人の女性教授であった森郁恵教授いわく、リラックスすることで研究のアイデアがどんどん浮かぶようになり、神経分野の世界拠点へとつながったそうだ。

一方、女性教員の増加により、見えてきた深刻な問題もある。採用された女性教員の多くが、単身赴任で子育てを行っていることである。キャリアを優先すれば、そうせざるを得ない現状がある。しかし、数は力なり。数が増えたことで当事者たちが研究力強化を目的とした「名古屋大学子育て単身赴任教員ネットワーク」を発足し、お互いに助け合うシステムを作り出した。最近では、学内に子供と一緒に仕事をしながら利用できるコワーキングスペースも大学内に誕生させた。そのネットワーク内では、夫同士のイクメンネットワークが出来上がっており、週末名古屋にやってくるときは、妻たちの研究時間確保のために、イクメンが集まり子供たちをいろいろな場所に遊びに連れて行くそうだ。きっと、苦労を共有できる仲間が増えることで彼らにとっても貴重なネットワークになっているに違いない。このように、数が増えてこそ、単身赴任問題のように個人の問題として片づけられない問題が浮き彫りになり、そして、自然とお互いが助け合い、周りが解決策を探すようになる。また、数が増えてこそ、個人が持つ本来の力を十二分に発揮できるようにもなる。

マイノリティ問題の解決には、やはり「黄金の3割」を目指すことが重要だと強く実感している。名古屋大学の生命理学専攻が、3割の壁をいち早く超えることができたのは、大学の英断によって女性限定人事という大胆なカンフル剤が入ったことが大きい。ただ、カンフル剤導入には抵抗も強く、そのような施策が入る保証もない。しかし、活動をあきらめず、やり続ければ、いずれ3割には必ず達するはずである。我々は、自分たちの世代では無理かもしれないが、自分たちの子供が同じ問題で悩まないように、この歩みを着実に進めていくしかない。そして、多くのマイノリティがマイノリティでなくなるとき、きっとその社会は多様性をもった柔軟で発展性のある社会に生まれ変わっていると信じている。その日を夢見て、お互い頑張りましょう!

引用文献:サイエンスポータル 2015年11月6日オピニオン・佐々木成江「女性研究者が増えると何が起こるのか?数値目標30%が意味するもの」http://scienceportal.jst.go.jp/columns/opinion/20151106_01.html

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